大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和53年(く)26号 決定 1978年10月09日

少年 W・R(昭三五・一・四生)

主文

原決定を取り消す。

本件を徳島家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、法定代理人親権者父W・H作成名義の抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、原決定が少年に対し特別少年院送致の処遇をしたのは著しく不当である、と主張するに帰する。そこで、本件記録を調査し、当審において少年を審問した結果をも参酌して検討するに、本件非行は、友人AがB子(当時一六歳、高校生)を少年の普通乗用自動車に連れ込み、これを少年が運転走行し、約三時間後原判示の河川敷空地に至り、右Aと共謀のうえ、自車内において、同女に暴行を加えて、A、少年の順に同女を強姦したものであつて、その犯情は悪質といわなければならない。

しかしながら、右共犯者Aは、中学時代の一年先輩に当るが、同じく一年先輩の友人の友人という程度で、ことに、最近同人が他村へ働きに行つているため、同人が地元へ帰つて来たときに時折り一緒に遊ぶ位で特に深い交際はなく、その間でいわゆる非行グループを構成していたものではなかつたが、偶々本件当日は日曜日であつて、少年はジュースを飲みに本件自動車で出かけ、国道沿いの自動販売機の傍にいた際、同人外一名と出会つて、○○駅周辺で交遊しているうち、同人が「女の子が○○公園に来ることになつている」と言つて、少年の自動車に乗り込んで来たため、右公園に赴き、少年は同所に駐車した車内に寝そべつて漫画本を読んでいたところ、間もなく右公園に現われた前記B子としばらく話をしていたAが、同女と共に少年の車内に乗り込んで来て、「まだ時間が早いためどこかへ行かんか」と言つたため、少年もこれに応じて発進し、Aの指示に従い前記犯行現場に至つたものであつて、当時少年はAの真意を知らず前記現場付近においてAが強姦行為を始めるに及んでこれに挑発され、少年も同人と意思相通じて前記犯行に走つたものであることが認められ、少年自身の犯行は偶発的であり、かつ、関係証拠に徴して認められるその犯行の具体的態様よりみても、従属的なものであつたことが明らかである。また、記録によれば、Aはすでに本年早々からB子に交際を迫り、過去二度にわたり同女を強姦していることが認められ、一方同女は捜査官の事情聴取の際、相手より強く言われると断り切れない弱い性格である上、Aにその姦淫関係を他言されることを恐れて不本意乍らも言われるままに同人と交際を続けていた旨供述しており、本件走行中においても同女がAとの同行を拒否する強い自己主張をせず、かつ、少年は同女と初対面であつたのであるから本件走行中において、同女が帰り度い旨の意向を示したのに、少年が「Aに聞け」と言つて引き返さなかつたことを深くとがめ立てすることは相当でなく、原決定が指摘する少年の運転によつて本件現場に至つた点を強く責めることはできない。これを要するに、本件犯行によつてみられる少年の非行性の程度は、その更生の可能性が否定される程重大視すべきものとは認められない。

次に、原決定が理由中3特別少年院に送致する理由として挙げる(2)(3)(5)の各点すなわち、少年は、自主性、判断力、実行力に欠け、学習に身が入らず、飲酒、喫煙、夜遊び、外泊、女遊びを覚え、情緒不安定で衝動的行動傾向を有し、合理化機制が強く、父母の養育態度に問題があつたなどの点は当裁判所も概ねこれに同調する判断をもつものであつて、その意味からすれば原裁判所が少年には本件非行に至るような素地、状況があり、その更生に困難が伴うとして少年に対し特別少年院送致の保護処分に出たことは一応首肯しえられないわけではない。しかしながら、本件記録上明らかなように、少年は過去において保護処分をいまだ一回も受けたことがないばかりか補導歴さえなく、また、学校生活の場面においても、表面立つて他から指弾されるが如き事態もなかつたため、保護者(父母)においてこれまで少年の資質面及び行動面上の要注意点について、覚知するところもなく、その指導監督について真剣に考えることがなく、いわば放任的態度にあつたことが認められ、保護者の放漫、不注意の譏りを免れないものがあつたが、直ちに原決定のいうように右保護者らが基本的に指導力を欠くものとするのは酷に失するきらいがあり、保護者は本件を知つて深く非を悟り、監督態勢を立て直し、母は離職して少年の家庭補導に専心し、少年の更生に尽くす決意を示していること、父は高校教師であると共にスポーツマンであり、多数の運動選手を養成して来た経験を持つていること、従来家庭内に少年の健全育成をさまたげるような問題もなく、狭い地域社会と父の交際範囲からして、少年の非行抑止と社会資源の発見に期待しうるとみるのが相当であること、少年に反省恭順の態度と勤労意欲のあることなどを考慮するとき、少年の健全育成を図るために、保護者の指導意欲及び能力に相当程度期待しうるものがあるといわなければならない。

以上の諸点を綜合して考えると、いま直ちに少年を少年院に収容することは相当ではなく、なおしばらく少年及び保護者の動向を見極めた上で、少年院送致、保護観察その他の処置で更生を図らせる処遇をするのを相当とする余地が十分認められるから、この点の審理を十分尽さずに、少年を特別少年院に収容すべきものとした原決定は著しく不当であるといわざるをえない。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項により、原決定を取り消したうえ、本件を原裁判所に差し戻すこととして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小川宜夫 裁判官 滝口功 川上美明)

〔参考一〕 抗告申立書(抄)

第一 少年W・Rに対する強姦少年事件について、徳島家庭裁判所が昭和五三年七月二七日なした特別少年院送致の原決定を取消す旨の御決定を求めます。

第二 抗告の趣意

(一) 少年は友人Cが窃取したラーメンを食べたことで警察の調べを受けたが、右Cが窃取したものとは知らず食べたもので、参考人として取調べを受けたにすぎない。その他は一度も非行歴もなく、元より補導を受けたこともない者である。

(二) 従つて、少年の本件犯行は全くの初犯であり、本件犯行に及んだ経緯についても中学校の先輩である共犯者Aに誘われるままAがガールフレンドであると称する被害者B子を同乗せしめ、Aの指示どおり車を走行したものである。少年は右AとB子が既に肉体関係もある仲であるとAより聞かされ、走行中も後部座席においてなされていたAとB子の言動もそのような関係にある仲なるが故のいちやつきであると考えていたものである。最終段階にいたつて少年もAの言うとおりの関係にAとB子があるとの点で些かの疑念を生じたことは疑いないが、Aが犯行に着手した段階ではまだ半信半疑の状態にあつたものである。Aが犯行を終り少年に犯行を促すにいたつて漸く自らも犯行を決意したものであり、Aの促しがなければ本件犯行にも至らなかつたことは明かである。

なるほど結果としては強姦罪という重罪を犯すに至つたが、Aの言を信じ、先輩であるその指示どおり車を走行せしめた結果Aの使嗾によつて本件犯行に至つたもので自発的、積極的に本件犯行に至つたものではない。

(三) 少年は高等学校卒業後も引続き自動車学校に教習に通い運転免許を得て、昭和五三年六月一三日から徳島西部○○○営業所に勤務することとなり、本件犯行の容疑により警察に連行されるまで一回の遅刻も欠勤もなかつたものである。卒業後直ちに就職しなかつたのは職務が外交員見習いであり、運転免許取得を必須とするので右営業所に就職勤務することは決定していたが、運転免許を取得する間勤務が遅れたものであり、犯罪的傾向が進んでいたとは到底考えられない。

(四) 被害者B子に対する慰藉については原審判当時は示談も成立していなかつたが、その後も引続き少年の両親が被害者の名誉を傷つけないよう万全の配慮を加えながら被害者の家庭と親しい知人を介し極力慰藉に努力中である。被害者の名誉を傷つけないよう配慮するためその交渉も隠密を要するために示談も早急に成立しない状況であるが、少年の両親の誠意は遠からず被害者側に通じ、示談成立できるものと考えられる。

(五) 少年の将来の監視、監督については、少年の母が従来手伝つていた義弟経営の食堂の勤務も止め、自宅にあつてもつぱら少年の監視、監督にあたるは勿論、少年の父も従来の監督不充分の所は身に染みて自覚し、これも全力を傾けて少年の監護にあたる決意であることは言うまでもない。

更に、それに加え○○○議会議長であり、株式会社○○○の会長として右会社の実質上の経営者であるGが少年の身許一切を引受け、少年を右会社に就職せしめ右会社の研修所に入所せしめ、厳重な監視研修をすることを約しておるものである。(G作成の誓約書一通添付)

(六) 本件原決定により少年の祖母W・Y子(八二歳)が強くショックをうけ病臥するにいたつているものである。

(七) 少年は昭和三五年一月四日生れで、今だ一八歳六ヵ月余であり、本年三月高校を卒業したばかりであり、父母及び前記Gの真剣な指導によつて充分矯正可能であると信ずる。

(八) 以上述べた点からして、原決定が少年を特別少年院送致となしたのは余りにも重きに過ぎ、性格の矯正及び環境の調整により少年の健全な育成を記する少年法主旨にむしろ反するものと考えられるので、原決定の取消しを賜りたくここに敢て抗告に及んだ次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例